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新刊サンプル&お知らせ

◆9月7日(土)NO.6オンリー同人誌即売会「PROJECT-6 Ⅲ」
(スプーン6/長屋&アイツウシン)

さつきりゅうじさんとの合同スペースになります。
風太は例によって欠席ですが、さつきさんが直参されます!
さつきさんの新刊もありますよー!
おしながきを作っていただきました!さつきさんありがとうございます!
→http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2783461
◆アイツウシン発行物は、新刊「CARNIVAL」と既刊「SAND BEIGE」と「Adagio」の3種になります。


新刊[CARNIVAL]
●相変わらず多忙な毎日を送る紫苑のもとへ、砂漠の町にいるネズミからカーニバルの招待状と思しき手紙が届いた。
「SAND BEIGE」の続きですが、この一冊でもお読みいただけます。
A5・52P今回はすべて書き下ろしです。
(以下、サンプル)




(サンプル1)

「…お疲れのようですね」
月ごとに行われる定例会は、今度の政策について、大きな反対意見は出ないものの、決して進みは良くなかった。寧ろ、難航していると言っていい。
誰もいなくなった会議室の椅子に腰かけたまま、テーブルの上の資料を見、一息ついた紫苑の顔はひどく疲れているようだった。
楊眠が抜けた後の補充員として新たにメンバーに加わった若い男が、何かと難癖をつけてくるのが気になっていた。
だが、楊眠派と裏で繋がっているというわけではない。調査書は、特に問題はなかった。
他のメンバーとも、うまくやっている。
紫苑に対しても、悪感情を持っているとは思い難い。
だのに、なぜだろう。
胸の内に、不吉な感情が顔をもたげる。
実際、委員会の中で、以前と比べて、特に紫苑の立場が悪くなっているというわけではない。
他の委員とも、今まで通りうまくいっている、はずだ。
ただ、旧勢力のトップの降格に一役買ったという事実は、どうやら他の委員の警戒心を煽ってしまったようだった。
楊眠無き後、事実上の委員会の代表は、紫苑だといっても間違いではなかった。
聡明で、信頼のおける委員会のトップ。
だが、若すぎる。
その若さゆえ、権力を得た途端に暴走しないという保証はどこにもない。
彼らがもっとも恐れるのは、『独裁者』だ。
その資質を、もしかしたら、紫苑の中に見てしまったのかもしれなかった。
いつかは自分たちも陥れられるのではないか。
そんな疑念を、それぞれが内包している。
そして、それは、紫苑自身も同じなのだった。
『自分』を恐れている。
顔色一つ変えずに、楊眠を追い込んだ己の冷酷さに、心のどこかで怯えていた。
また、【あれ】と同じことが起きるんじゃないか。
また、同じことが。
大事な何かを護るために、冷然と、あの、銃の引き金に指を掛けた瞬間と、同じことが。
紫苑の背中を戦慄が走る。
指に残る、生々しい感覚。
人を殺めた、生温かい感触。
恐ろしく、だが、決して忘れてはいけない記憶に、紫苑がぐっときつく唇を噛み締めた。
トーリが、どうぞと熱いコーヒーを運んでくる。
「すまない。ありがとう」
小さく謝礼を告げて、紫苑は微かに震える指で、コーヒーカップを口に運んだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとうトーリ」
熱いコーヒーを胃に流し込んでいきながら、紫苑が心の中で呼びかける。
この世で絶対に揺るぎないものに。
ネズミ。ネズミ。
ぼくは、まだ、変わらずにいるか。
『あんたのままで変わらずいてほしい』と願ってくれた、そのぼくと同じだろうか。
変わろうとしているのだろうか。
いや、もしかして、もう変わってしまったんだろうか。
わからない。
自分でも、よくわからないんだ。
なあ、教えてくれ。ネズミ…。
そうして、砂漠の町で、一緒に見上げた赤い星を思い出す。
ネズミ。まだきみは、あの町にいるかい?
あの町で、情熱的な歌声で、人々の心を魅了しているか。
生きているんだと心から実感できる、あの躍動した町と人々の中で。
砂漠の町で再会して、そして再び別れてNO.6に戻り、まだ半年もたっていないというのに、もうこんなにきみが恋しい。
情けないな。
一人だと、NO.6という巨大な化け物に、魂ごと呑み込まれてしまいそうになる。
『隙を見せるな紫苑。壁が崩壊したって、NO.6そのものが消えてなくなったわけじゃない。今もあの聖都市は、弱い人の心を食らって肥え太る、冷酷で醜い化け物さ』 
「紫苑委員」
回想の中で、ぼんやりとコーヒーを口に運んでいた紫苑の前に、ふいに近づいてきたトーリが、静かに一通の手紙をテーブルの上に置いた。
すっと指先で滑らせ、紫苑の前に差し出す。
「これは?」
「私の元に、NO.2にいる友人から昨日手紙が届きました。その中に同封されていたものです」
「…NO.2…って」
確か、砂漠の町サンド・ベージュに紫苑が滞在していた時、最も近隣の都市であるNO.2から、度々トーリの伝言を運んできてくれた男がいた。
もしや、彼から?
だとすると、まさかこれは。
「…トーリ、これって…」
はっとし、紫苑が慌てて手紙を奪い取るように手に取り、裏返す。封筒の宛名書きの名と文字に、さらに大きく瞳を見開いた。
「ネズミ…!」
紫苑に宛てたと見られる手紙の封筒の裏には、ネズミの筆跡で、紫苑に渡してくれと記してある。
ガタッとパイプ椅子を跳ねとばすようにして、紫苑が立ち上がった。
「ネズミの手紙だ! ネズミがぼくに!」
手紙を書いてくれた。あの不精なネズミが!
容姿と同じに美しい筆跡を、紫苑はしっかり覚えていた。忘れるはずがない。
西ブロックの劇場の常連客のパンフレットに、支配人に言われて、嫌々ながらサインをしていた仏頂面を思い出す。
せっかくのサインなんだから、もう少し良い顔で書いてあげたらお客さんも一層嬉しいだろうにと苦言を呈すと、うるさいあんたは黙っていろとますます仏頂面になった。
後になって、美しい字だ、きみの書く字は本当に品があって美しいと、紫苑が誉めちぎったことが原因だったのだと気づいたが。
その頃には、もうネズミはNO.6から旅立った後だった。
照れ臭かったんだなんて、あの時は想像もしなかったのだ。
そんなことを懐かしく思い出しながら、紫苑が手紙を見つめて小さく微笑む。
「委員、中身の確認を」
コホンと咳払いを一つして言うトーリの声に、紫苑がはっと我に返る。
「え、あ! そうだね」
だが、ネズミから手紙を貰うなんて初めてのことだからと、封を切る紫苑の指が緊張する。
ペーパーナイフがうまく使えない。
焦れながら、どうにか開封する。
なんて書いてあるんだろう。
彼のことだ。きっと悪態とか、どうせ、ひねくれた内容に違いないんだろうけど。
いや、どんな内容だっていい。
(きみが、ぼくのために手紙を書いてくれた。その事実がたまらなく嬉しい…)
微笑みながら、封筒の中身を取り出す。
茶色の封筒の中から出てきたのは、同じく茶色の古い便箋と、カーニバルのポスターだった。
ごくりと生唾の呑み込みつつ、とにかく、ふるえる指で便箋を開く。
「……えっ」
途端に、何とも表現のし難い音が紫苑の口から漏れた。
驚きとも落胆とも抗議ともとれる、妙な声が。
普段は滅多に表情を変えないトーリの、片眉が微かに上がった。
「どうされました?」
「いや、それが」
「何が書いてあったんですか?」
複雑な表情を見て、トーリがいぶかしむように紫苑を見る。
友人の手紙の内容から、まさか悪い知らせではないだろう。そう、予測していたのだが。
もしや、何かあったのだろうか。
紫苑の大事な、『ネズミ』という人物に。
「紫苑委員」
応えを急かすように呼べば、便箋の上の文字からやっと顔を上げて、紫苑がトーリを見る。
そして、何とも情けない声と顔で言った。
「―――読めない」
「は?」
やや間の抜けた声で返せば、紫苑が苦笑しつつ、だけども決して笑ってはいない瞳で、頬を引き攣らせながらにっこりと言った。
「―何が書いてあるのか、さっぱりわからないんだけど、これ」





(サンプル2)

「大丈夫か」
「大丈夫じゃない。もう、ぐでんぐでんだ」
「見たところ、そうらしいな」
宴が終わり、にぎやかだった広場は既にしんと静まり返っている。
紫苑はジプシーのテントの外で、両足を投げ出し、椅子代わりの酒樽にもたれ、熱い頬を冷やしていた。
酒にぐったりとした横顔に、ネズミが冷たいサイダーの瓶を押し当てる。
紫苑が微笑んだ。
「…気持ちいい。冷たい」
「ひどい顔だ。真っ赤だな」
失笑しながら、衣装からラフな私服に着替えたネズミが、紫苑の凭れる樽に腰かける。
紫苑は身体の位置をずらすと、ネズミの足へと甘えるように身体を傾けた。
「きみのせいだ」
「おれのせい? そいつは心外だな」
「きみがあんな人だかりの中で、ぼくを見つけるから」
責めているような、だけども少し嬉しげな口調に、ネズミの手が紫苑の白髪をそっと撫でる。
紫苑が、気持ちよさそうに目を閉じた。
まさか、見つかるとは思っていなかった。驚いた。
夜を待って、この町で再会したあの夜のように、此所で一人でくつろぐネズミの背後にこっそり忍び寄って、驚かしてやるつもりだったのに。
「あんたは目立つのさ。どこにいても」
「髪のせいで」
「髪のせいじゃない」
「うん?」
「まあ。あんたがどんな髪色をしていようが、あばずれ女に変装していようが、おれには見つけられるけどな」
「あばずれ女は、どうかと思うけど」
やや不服げに抗議する紫苑に、やれやれあんたはまったく、とネズミが苦笑し、両肩を持ち上げる。
「やっぱり、あんたはどこかズレてるな」
おかしそうに言うネズミに、紫苑がそうかなと反論する。
「ズレてるつもりはないけど」
「いや、謙遜することはない。相変わらず、お墨付きの天然だ」
笑うネズミに、紫苑がますます不服げに頬を膨らませる。
その顔のまま、訊ねた。
「どうして、きみにはぼくがわかるんだ」
愚問だ、と、ネズミが応える。
そもそも、はじめて出逢った12の嵐の夜。おれはすでに導かれていた。
あんたという存在、そのものに。
「理由なんてないさ。あんたがどこにいても、おれにはあんたが見つけられる」
「ネズミ…」
「あんたを、他者の中に紛れさせることはない」
静かに断言する言葉に、紫苑がゆっくりとネズミを見上げた。
その瞳に引き込まれるように、ネズミが上体を傾ける。
紫苑は、そっと目を伏せた。
やさしいキスが、羽毛のようなやわらかさで、紫苑の唇に落とされた。
甘いキスだ。
あんたを愛している、と濃灰色の瞳が告げる。
紫苑が、緋色の瞳を潤ませ、震わせた。
「きみが、好きだ。愛しているよ、ネズミ」
瞳をまっすぐに見つめ返して、紫苑が言う。
2度目の口付けは、長めだった。互いの唇をしっとりと味わうように重ね合う。
僅かにふれあった舌から、ちり…と甘い熱が発生する。
もっとそれが欲しくて、さらに唇を寄せようとしたところで、だが、ネズミはここまで、というように身体を離した。
紫苑が、少し名残惜しそうに上目使いになる。
「…手紙」
「ん?」
呟くように唇からこぼれた言葉に、ネズミが何だとばかりに片眉を上げる。
もう怒ってはいないけれど、それでも、紫苑の口調はやはり責めるみたいになってしまった。
「どうしてあんな回りくどいことをしたんだ?」
「回りくどいこと? マルコに預かった手紙を、NO.2のトーリの友人に託したことか?」
「てっきり、きみが書いたんだと思った」
「まさか。さすがに旧文字など、おれにだって書けない。筆跡を見たらわかるだろう」
「封筒の文字はきみだった。だから、中身もそうなのかって」
「マルコは旧文字しか書けないんだ。だが、あのままじゃアドレスに該当なしで、NO.6で廃棄されてしまうだろう。だから、おれが代筆した。それを、NO.2で仕事をした折に、ハムソンに託したのさ。サンド・ベージュからじゃ、エアメイルは送れないからな」
確かに、聞いてみれば、納得のいくもっともないきさつだった。
けれども。
「でも、期待した」
「何を?」
意地悪く、ネズミが問う。
「きみからの、暗号文書かと思ったんだ。もしかして、その」
「ラブレターかって?」
からかうように紫苑の顔を覗き込むネズミに、もごもごと口篭りつつ、紫苑が応える。
「…だって。指輪の時だって」
「指輪の文字は、最初から彫られていたものだ。おれが雑貨屋にリクエストしたわけじゃない」
「…うー」
「唸るな」
「何か、くやしい」
言うなり、紫苑の鼻がぐすんと鳴った。
「べそをかくな。子供か、あんたは」
「だって」
みるみる真っ赤になっていく可愛い鼻を見て、ネズミが目を細めてジーンズのポケットから何やら取り出す。
「仕方がないな。ほら」
「えっ」
差し出されたのは、少しだけよれた砂色の紙だった。
やや乱暴に紫苑の手に押し付ける。
そこには、殴り書きのようなネズミの文字があった。
「おれの手紙はこっちだ。あんたに直接手渡すつもりだった」
「……ネズミ」
「カーニバルの招待状だ」
一つ一つの文字を指先で辿って、紫苑が今度は目許を赤らめる。
「…相変わらず。きみはずるいやつだ」
「そいつは悪かった。もっと感動してくれると思ったんだがな」
人の悪い笑みを浮かべるネズミとは裏腹に、紫苑はくっと唇を噛むと、自分の膝を抱えるように身体を丸め、膝の上に顔を突っ伏させた。
「………ぐすん」
「えっ、おい、紫苑?」
焦り気味に手をかけた紫苑の肩が、小さくわななき出して上下する。
ややあって、泣き声が漏れた。
「紫苑、おい」
「…ぎみのことだと、ひっく……ぼく、は、感情に歯止めがっ……効かなくなっ、るんだ。よく、わがった……よ」
「お、おい、泣くな」
かなり焦っているような声が、紫苑の耳元で聞こえる。
とんとんと背をやさしくなだめられて、紫苑が堪らず、声を上げて泣き出した。
「ああ、そんなに泣くな。まったく子供みたいだな、本当にあんたは」
純粋で、まっすぐで。
涙を惜しまない。
「うる、さいっ」
涙に濡れた顔を上げてネズミを睨みつけ、紫苑が膝立ちになり、ネズミの首へとぎゅっと強くしがみつく。
「今のぼくは、酔っ払いだっ、よっぱらいなんだからなっ! 酒の勢いで何でも言っていいんだ、赦される筈なんだ、から…!」
「…ああ、そうだな」
震える背をやさしく抱いて、ネズミがふっと目を細める。
ああもう、なんていじらしい、愛おしい。
「ネズミのばか、ばかっ…! さびしかったんだ…! 毎日、とても、苦しくて、生き苦しくて、きみに、とてもっ、会いたくて……」

日々戦いだった。苦しかった。
ずるく賢くならなければ立ち回れない。そんな自分が嫌だった。もっと強くありたかった。
何があっても何を言われても、揺るがずに、傷つかないでいられるくらい、強くなりたかった。
だが、ネズミは言った。
やさしく紫苑の髪を撫でながら。
いいんだ。紫苑、あんたはそれでいい。
どんな言葉にも傷つかず、どんな声にも耳を貸さず揺るがずにいたら、人の心に鈍感になる。
気持ちが見えなくなっていく。
あんたは、それでいいんだ。違えるな。
あんたが目指すのは、どんな熱にも解かされない、強固な氷塊のようなトップじゃない筈だろう。
苦しくて、悔しくて、泣いてもいい。
だが、背けるな。
痛みも傷も血も涙も、いくら苦しくても、そこから目を逸らしちゃいけない。
見ないことにして得た強さは、いつかあっさり砕かれる時がくるのさ。
大丈夫だ。
あんたは、間違っちゃいない。自信を持て。



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