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Lento(ネズ紫本/新刊サンプル)


『イヴが死んだ』―突如、ネットに流れたニュースに衝撃を受け倒れる紫苑。真相は…!? 8/19発行予定のネズ紫新刊のサンプルです。「Adagio」「After Eden」に続くシリーズですが、この一冊でもお読みいただけます。コピー本「Peaceful garden」も大幅加筆・修正して収録しています。(R18)

◆書店予約始まりました。今回はとらのあな様専売になります→http://www.toranoana.jp/bl/article/04/0030/06/56/040030065655.html
◆8・19SCC関西(インテックス大阪)6号館Dゾーンゆ7b 長屋&アイツウシン 
※風太は欠席です、すみません。
スペースには売り子さんがいてくださいますが、最初の一時間程度はお買い物に出られますので、ごゆっくりお越しくださいませv (13時ごろ撤収の予定です)
◆既刊「はじまりの朝とさよならの月夜」「透明トライアングル」も少しずつ搬入します。















(サンプル1)


過去のNO.6は閉鎖的で、それとなくインターネット上でも規制が行われ、情報操作が施されていたようだけれど、今は、そんなこともなくなった。こうして、他の5都市のことも、知ろうとすれば容易に情報を得られるようになった。
紫苑の背後の席で、どうやたイヴの画像を探しているらしい職員に、紫苑がそれを背中で気にしながら、ちらりと肩越しに覗き見る。
信憑性にいささか疑問ばかりが募るNO.5の芸能ニュースの記事は、極力見ないようにしてきた。真実ではないことで心を乱されるのは本意ではないし、ネズミ自身も辟易としているようだったし。そんなくだらないものを見るなと、きっと怒るに違いない。
それに何と言っても、目の前の彼のことだけで、紫苑は既にいっぱいいっぱいだったから。自分で確かめられる真実が間近にあるのに、他人に知らされる虚偽など馬鹿馬鹿しいと思っていた。
とはいえ。こうやって近くで見られると、やはり、気にはなる。気もそぞろに同じ数値を打ち込みながら、紫苑がちらちらと背後を窺う。
「おっ、あったあった。ほら、見…」
が、言いかけた職員のマウスを持つ手が、不意にぴくりと止まった。
「どうかしたんですか?」
無言で記事をスクロールさせる職員に、その背後から女性職員がいぶかしむように覗き込む。
そして、はっと瞠目した。
「うそ……」
呟いて、震える両手で口を押さえる。同じく集まってきて画面を覗き込んだ1人が、思わず声を荒げた。
「おい、ちょ…! なんだよこれ!」
「え、何だ。どうした?」
「そのイヴだよ! 今、インターネットでニュース速報が流れてる…!」
「イヴが? どうしたって?」
「――待て。音声出すから」
ざわめき出すオフィスの一角に、紫苑がさすがに気になり、椅子を立ち上がった。
抑揚のない途切れ途切れの音声が、し…んと静まり返った室内に流れ出す。

『…2週間前から行方がわからなくなっていた人気舞台俳優・イヴの死亡が確認されたと、元所属事務所から発表があり……治安当局は、以前から交際のあったとみられる人気アイドルグループのボーカル・Rの運転する自家用車が、6日未明、NO.5南部のジュリエッタ海岸の岸壁から転落した事故との関連性を……』



――人気舞台俳優・イヴの死亡が確認されたと――



紫苑の瞳がぽかりと開いたまま、瞬きを忘れて瞠目した。
今、何と言った? 
「どういうことだこれは」
「Rって確か、この前、車ごと崖から海に落ちて自殺したアイドルですよね。重態って聞いたけど、じゃあ、その車にまさかイヴが…!?」
「一緒にいたんじゃないかって、そういえばネットで噂されてたけど。でも、引き上げられた車からは、Rってヤツしか見つからなかったって話だったんじゃ…」
「それが今になって、現場からかなり離れた場所から水死体が上がったんだってさ。検死の結果、それがイヴだと断定されたって」
「うわ、そんな…。ショックだ、俺。ファンだったのにー」
「ってことは、月の雫の舞台に立ってくれるってあれ、もう駄目になっちゃったってことだよな…」
口々にニュースの感想を伸べる同僚らの声が、紫苑の思考の中で遠くなる。



何だ。それ。意味がわからない。


イヴが死んだって?
死体が上がったって?
そんなわけないだろう。
そんなはずはない。



だって、彼は。



帰ってくるって約束したんだ。
ぼくと、あの丘の上の家に棲むって。


だのに。




(…うそだ……そんなこと、うそだ………)










―――きみが、しんだなんて。









「楊眠さん、どうするんだろ。せっかくNO.5に通い詰めてやっとイヴを口説き落としたって大喜びしてたのに。このニュース聞いたら、ショックで倒れちまうんじゃ…」
言った背後で、ガタ…ッ!と椅子がひっくり返る。驚いて振り返った同僚らの目に、昏倒して、ゆっくりとフロアに沈む紫苑の蒼白な顔が映った。
「紫苑…!?」
「きゃあぁっ…!」
「おい、どうした、紫苑!? しっかりしろ、おいっ!」
「紫苑、おい、真っ青じゃないか…!」
「紫苑さん、紫苑さん!? どうしたんですかっ!?」
「ちょ、やばいぞ、呼吸が止まってる!」
「仰向けに寝かせろ、人工呼吸…! デスクどけろっ!」
「救護室に連絡を! 急げ!!」
「おまえ救急車を呼べ! ほら、ぼけっとするな、早く!! おい、紫苑っ、紫苑――!!」






いきが、できない。
せかいが、とおざかる。






落ちて行くさなか、意識の中にあの碧空が見えた。
喪失の、青。
きみが去っていった日の青い空。
碧空が世界を覆っていく。紫苑の世界を覆い尽くす。
息が出来ない。
あたり一面の空の中、まるで海底に沈んでいくように、息が出来ない。胸が、肺が押し潰される。


















(サンプル2)



やばい。薄明かりの街灯の下、しかも雨で足元はぬかるんでいる。ナイフを振り回して逃げるなんて、無謀すぎる。あまりにも現実的じゃない。
でも、こんなところでこんなやつらに好きにされるなんて冗談じゃない。死んでも嫌だ。
「おらよ」
ひきちぎれそうに力任せに腕をとられ、乱暴にぬかるみへと転がされる。あっという間に圧しかかられて、紫苑がナイフを振り回しながら、正面の男の急所めがけて蹴りをいれた。が、痩せきった身体は悲しいほど非力だった。
「いってえなあ、これからお前を楽しませてやる大事なとこ蹴ってどーすんだよ、おらッ」
「や、やめろ…っ離せ……っ」
白い寝巻きをビリビリと引き裂かれ、恐怖に顔を歪ませる紫苑の傍らを、小ネズミがかん高い声を上げながら駆け回る。
「けっ、うるせえよ」
刺青のある腕に食らいついた小ネズミが、力まかせに振り払われ、宙を舞った。
「クラバット…!」
懸命に小ネズミに腕を伸ばす紫苑の瞳が、次の瞬間。大きく見開かれた。

(……えっ…?)

闇に飛ばされた小ネズミが、不意に物影から現れた、黒いフードを纏った男の手に受けとめられたのだ。
小さな身体を敏捷に立て直して、小ネズミがチチッと鳴き声を上げ、その肩へと駆け上がる。
紫苑がはっとなった。
人に慣れない小ネズミが、どうして。



――まさか。



予感に応えるように、嘆息混じりに男が言う。
「やれやれ、まったく。少しは自分の心配をしたらどうだ」
「え…っ」
「相変わらず、お人好しだな」
雨の中、くぐもった声がした。

―聞き覚えのない声だった。

だけど。
落胆はしなかった。
紫苑の中で誰かが叫んでいる。
お前の勘は間違っていない、正しい、信じろと、誰かが懸命に叫んでいる。
迷うな、惑わされるな、見失うな。
あんたは、あんたの目でそれを確かめるんだ。真実を。
いつかのネズミの言葉が耳の奥で聞こえている。頭蓋の中で響いている。
心臓がどくどくと音をたてる。胸を突き破りそうに、激しく大きく。
眼球がこぼれおちそうなほど、大きく瞳を見開いている紫苑を見下ろし、男が嗤った。


「そいつ、おれのなんだ。返してくれないかな」





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