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透明トライアングル(SCC新刊サンプル)

5/4 SUPERCOMICCITY21発行の新刊サンプルです。
『西ブロックのネズミの家に、矯正施設に捕らわれてるはずの沙布が力河に連れられ、やってきた。いぶかしみながらも、ネズミ、紫苑、沙布の三人の奇妙な同居生活が始まった。紫苑を間において火花を散らせるネズミと沙布に紫苑は…。』
サンプルにはありませんが、R18内容も含みますのでご注意くださいませ。

とらさんで書店販売の予約がはじまりました→http://www.toranoana.jp/bl/article/04/0030/04/12/040030041270.html

★5/4 スパコミ東1ホール/キ-2a 「長屋&アイツウシン」
当日風太本人は仕事のため、欠席です(涙)















「それにしても、すごいね、沙布は。これだけの食材でこんなにお美味しいスープを作れるだなんて。きっとネズミも驚くよ」
「そう? ふふ、お料理はね、ちょっとばかり自信があるの」
ストーブにかけた鍋の中で、沙布の作ったスープがコトコトとやさしい音をたてている。
テーブルの皿の上には、ネズミが買ってきてくれたパン。ちゃんと3人分ある。
護衛の犬も増やしてくれた。買い物も仕事前に済ませてくれた。口では皮肉げなことを言いながらも、こういうところは本当にネズミはやさしいと思う。紫苑の口許が自然と微笑む。
「それにしても、ぼく、沙布がこんなに料理上手だなんて、ちっとも知らなかった」
「NO.5にいる間に覚えたの。家ではおばあちゃんが何でもやってくれたし、わたし、何もすることがなかった。今思えば、留学して良かったわ。いろいろ経験できたもの」
「うん、そうだね。経験するって大事だものね」
「ええ。でも、その分、おばあちゃんには、淋しい想いをさせちゃったけど」
「…沙布」
スープを丁寧にかき混ぜながら、沙布が少しかなしそうに笑む。たった一人の肉親を失った後で、こんなことに巻き込まれたのだ。さぞかし、心細い想いをしてるんだろう。
気丈に振舞ってはいるけれど、本当は不安で堪らないに違いない。思い、丸みのある肩に、そっと手を置く。
彼女のために何かしてあげたい。力になりたい。
ぼくの大切な親友のために、ぼくにできることがあれば何だってしてあげたい。
できれば、このままずっと、こうして3人でいられたら。無理なこととは知りつつも、望んでしまう。
「あなたはどうなの、紫苑」
黙り込んでしまった紫苑を傍で見上げ、唐突に沙布が問いかけた。紫苑がはっとなる。
「え?」
「わたしがいなくて、少しは淋しかった?」
「え…? うん。それはもちろん…!」
「へーえ、そうかしら?」
悪戯っぽく顔を覗き込むようにして、沙布が後ろで手を組む。紫苑の瞳をじっと見つめた。見透かすように黒い瞳に見つめられて、紫苑がたじたじと後退する。
「な、何だよ、当たり前だろ」
「嘘。わたしのことなんか、すっかり忘れてたんでしょ?」
「そんなことないよ!」
「じゃあ、留学前にわたしに言った言葉もちゃんと覚えてる?」
「留学前?」
「”2年経ったらぼくから尋ねる”」

『セックスしないかって?』

あの日の沙布の言葉が、鮮やかに紫苑の脳裏でリピートされる。一瞬で頬が熱くなった。
忘れていたわけではない。当然ない。
だけども、今改めて思い出した。
そうだ、あれを言ったのは、目の前にいる沙布だ。
「―あ。お、覚えてるよ」
「だったら。今、尋ねてもいいのよ」
ずいっと詰め寄られ、さらに紫苑が後ずさる。
「2年経ってないよ…」
語尾が上擦る。
「留学から帰ってきたら尋ねるって言ったわ。帰ってきたわよ?」
「帰ってきたっていうのかな、これ…」
次第にか細くなる紫苑の声に、沙布が両手を腰にあてて、さらにさらに詰め寄る。
「わたしは、NO.5にいる間もずっと考えてたのよ、紫苑のこと。あなたに会いたいってずっと思ってた。ルームメイトに恋人が出来た時なんて、すっごく羨しくて、今すぐあなたの元に飛んでいきたい、あなたを抱きしめたいって思ったわ。想いを伝えたくて!」
「沙布…」
本棚の前まで来たところで、小ネズミたちが助け船を出すようにチチッと声を上げた。足元に積み上がった本を気にしながらも、紫苑がまっすぐに沙布に向き直る。
瞳を見つめて、真剣な眼差しで応えた。はぐらかすことは出来ない。
真摯に想いをぶつけたにも関わらず、あっさり肩透かしをくわされる。そんな苦さも、今の紫苑なら充分すぎるほど知っているから。
「沙布。ぼくは、きみのことがとても好きだよ。とても大切に思ってる」
「…紫苑」
「でも、その、セックスとか、そういうのはその……」
肝心なところで、やっぱり恥ずかしそうに目を逸らす紫苑に、沙布が、もうちっとも成長していないのねという顔で嘆息した。
友人として大事に思ってくれていることは、とっくに知っている。聞きたいのは、それ以上のことだ。
たとえば今。
そう、自分以外の誰かでもいい。
紫苑が、そうなることを望む相手はいるのか。恋の対象となる人はいるのか。
沙布が、ふと思い当たったように尋ねた。
「ねえ。彼ならどう?」
「彼って?」
紫苑がきょとんとする。
沙布がやや苛立ったように返した。本来なら、こういうたとえで絶対出したくない名前だ。
でも、知りたい。
紫苑が、どんな反応をするのか知りたい。
「決まってるじゃない、ネズミよ」
「え、ネズミって…」
「もし、ネズミにセックスしたいって言われたら、あなたは何てこたえるの?」
言い終わるのを待つまでもなく、紫苑の顔が一瞬で真っ赤になった。頬の痣がどこなのか、見つけにくいほどの赤さ加減だ。
「は…はあ!? さ、沙布、何言って…!」
「今はだめだって言う? 2年後ぼくから尋ねるっていう?」
「ちょ、ちょっと待って! どうしてネズミ!? なんでそうなるんだ!?」
「たとえ話よ、聞いてみたくなったの、ねえ教えて!」
「ななな何言ってるの、沙布…! や、やだな、そんなわけないだろ、ネズミは、だって、その、どどど同性で…!」
「あら、紫苑てば案外古いのね」
「ええっ」
「わかった、ネズミが帰ってきたら、わたしから聞いてあげる!」
本棚の手前まで紫苑を追い詰めて、腕を組んでくるりと沙布が向きを変える。
「何を! って、ちょ、ちょっと待ってよ、沙布、やめて」
今すぐにでも飛び出して、ネズミを探してそれを聞き出しそうな勢いに、紫苑が慌てて沙布の腕を掴んだ。
「とっ、ともかく落ちついて、沙布っ」
「落ち着くのはあなたよ紫苑。もう何よ、耳も首筋まで真っ赤よ! ああもう悔しい! どうしてわたしよりネズミの方にそんな反応しちゃうかなー!」
「や、だから、ちがうからっ、誤解だ、ちがうんだってば、本当に!」
しどろもどろになって、両手をばたばたさせる紫苑に、沙布が呆れたようにそれを横目で見て嘆息する。こんなに慌てふためく紫苑を見るのは初めてだ。まったく、腹立たしい。
聞かなきゃ良かった。だって、これでは、まるで。
「あー、それにしても遅いな、ネズミ! ちょっと見て来ようかな。うん、心配だしそうしよう、ぼく、ちょっと見てくるよ」
「あ、じゃあわたしも行くわ!」
「い、いや、いいよ、女の子には、西ブロックの夜は危険すぎるから。沙布はここで待ってて! ほら、小ネズミたちと遊んであげててよ。じゃ、きみたち、沙布を頼むね!」
「あ、ちょっと紫苑!」
ばたばたと扉を開けて外に飛び出してしく紫苑の背に、沙布の『逃げられた…』という呟きが突き刺さる。
まあ、事実そうなので仕方がないけれど。
階段を一気駆け上がり、地上に出て、紫苑がはあ…と脱力したように溜息をつく。50歩ほど歩いたところで、コートを忘れてきたことに気がついた。
西ブロックの夜は冷え込む。だが、今更取りに戻るというのも気まずくて、そのまま闇の中を歩き出した。
「寒…」
ぶるっと身を震わせて、自分の身体を自分の腕で抱くようにしてあたためる。
頭上ではきれいな月が、少しは足しになるかしらと、青白い光を投げかけてくれていた。
そうか、コートを忘れた上にランプも無かった。あらためて思い出し、紫苑が月を見上げる。
そして、特に宛もなく、ただ何となく、NO.6の壁の見える川のほとりを歩いていくうちに、少し岸から突き出た場所に立つネズミの姿を見つけた。
「ネズミ…」
呟きのような微かな声にも関わらず、濃灰色の瞳が紫苑に気付いた。紫苑の足取りが自然と小走りになる。
「ネズミ…!」
「どうした、ランプも持たないで。あんた、ただでさえも鈍臭いんだから、また転ぶぜ?」
「大きなお世話だ。…って、こんなところで、何してたんだ? 帰ってこないから心配してたんだよ」
背後に近づいてきた紫苑をちらりと見ただけで、身体は岸の方に向けたまま、ネズミが答える。
「おれの心配なんて必要ない。というか、せっかく気をきかせてやったのに、野暮だな、あんた」
「どういう意味?」
「セックスの途中に、おれに帰って来られちゃ困るだろ?」
「な…」
もう本当にきみたちは、セックスセックスって。
何だよ、もう。
真っ赤に赤面しながら口の中でぶつぶつ言って、紫苑が恨めしそうにネズミを見上げる。
「ベッドは使うなって言ったのはきみだ。いや、勿論そんなことしないけど! だいたい、そんなことに気を回すなんて、きみらしくない…じゃないか」 
語尾が一気に萎えて、言いにくそうにもごもごとなる。
「何だ、それは。褒めてるのか、けなしてるのか」
「どっちでもないよ。そんな気遣いは要らないって言ってるんだ」
「そっちこそ。おれのことなんて気にせずに、彼女とよろしくやってりゃいいのに」
「…そんなこと。思ってないくせに」
紫苑の眼差しが、ますます恨めしそうになる。向けられたままの背中を、むっと上目使いに睨んだ。
「生憎だが思ってるぜ? このまま2人でとっととNO.6に帰ってくれりゃあ、おれとしても万々歳だ。一度に厄介払いができる。違うか?」
「それは…」
「2人分食っていく金を稼ぐ必要もなくなるし、ベッドも一人で広々と使える。風呂の順番を気にすることもない」
清々する。そう言いながら、ネズミが脳内で想像する。

紫苑のいない広々とした空間。
それは、自由だ。
そして、空虚だ。
そして、なんて寒々しい。

ネズミが、紫苑に気付かれないように片目を眇める。
いつのまに、こうまで紫苑のいる生活に慣れてしまっていたんだろう。もっと早く追い出すべきだった。
もう遅いと知りつつもネズミが思う。
「風呂は、いつもきみが先に使うだろ」
「あんたが引っ掛かるのは、そこか」
苦笑を漏らし、ネズミが壁の向こうを見つめる。紫苑がその顔を背後から覗き見た。
いつもそうだ。こうやって壁の向こうに何かを見ている時のネズミは、すぐ傍にいるのに遠くに感じる。
今夜は、特に。

どうしたらいいんだろう、と、紫苑が胸で落とす。
どちらも失いたくない。
どちらも大切だ。
これは狡いことなのか。
――だけど。
(沙布のことは大好きだし、とても大事だ。でもきみへの想いとは、全然ちがうのに)

「どうしてわかってくれないんだ…」
悔しげに、紫苑が呟く。
そして、くっと唇を噛みしめると、ネズミの背にそっと近づき、逞しい肩甲骨の狭間にこつんと額を当てた。  
切なげに眉が寄せられる。
つい先程、沙布の想いを、結局はぐらかすような真似をしたくせに。
今、自分の想いをはぐらかされて、傷ついたような気分になっている。
沙布の気持ちにも上手に答えられない。ネズミに上手く想いを伝えることもできない。
ぼくは、どうしてこんなに中途半端に無器用なんだろう。
だけども、どちらも本当の気持ちで、嘘じゃない。2人に絶対嘘はつきたくない。誠実でありたいと思う。
でも、わからない。
自分の気持ちに誠実であるということは、つまり単なるエゴイストということじゃないのか。同じじゃないのか。
「……紫苑?」
沈黙してしまった紫苑を気遣うように、ネズミが名を呼ぶ。
ほら、こういうとこ。やはり、きみはやさしい。
そして、ぼくは知っていて、甘えている。
こんな風に弱気な時、ネズミがやさしくしてくれることを知っている。
ずるい。
「ネズミ……」
なんだか泣きたい気分だ。自分が情けなくて、泣きたい。
「ぼくは此処にいる。どこにも行くつもりはないよ」
声が震える。
「出て行けって、きみに殴られても」
ネズミの背に額を押し当てたまま、声が震える。
「きみといる」
肩がわなないた。
気配を察して振り向くネズミを、紫苑が目許を赤く染めて見上げる。
「どうした、あんた。コートも着ないで」
今更気付いて、ネズミが自分の肩からマフラーを解き、紫苑の肩をそっと包んだ。
あたたかい。紫苑がふっと瞳を閉じる。
「ネズミ…」
そして、そっと呼ぶと、ごく自然に、紫苑から近づいてキスをした。
一瞬だけ、熱を分け合うように唇が触れる。
「何のキスだ?」
唇が離されるなり、ネズミに問われた。紫苑がびくりとする。
「え…っ?」
「今のは何のキスだ?」
ネズミがもう一度訊いた。
突然のキスを、怒っているわけじゃない。濃灰色の瞳は穏やかに笑っている。
紫苑がほっとしたように笑みを返した。
それにしても。キスって、いちいち意味を尋ねられるものなのか? そういうものなのか?
困惑しながら、紫苑が頬を赤らめて率直に返す。
「何の、かな。わからない。きみとキスがしたくなった」
素直な言葉に、ネズミが驚いたように紫苑を見た。
何かおかしかったのか?と上目使いに見上げれば、わかりやすく目を逸らされた。
『もし、ネズミにセックスしたいって言われたら、あなたは何てこたえるの?』
つい今しがた聞いたばかりの、沙布の衝撃の発言が耳の奥で木霊する。思い出して、紫苑の耳朶の先や項までが熱を帯びる。
(そんなの同じだよ、沙布。片方だけが望んで出来るものじゃない…)
思いながらも、つい想像してしまいそうになって、紫苑が慌てて頭の中を真っ白にする。頬はますます熱くなった。
「欲情したんだろう?」
「えっ」
唐突に言われ、紫苑がはっと顔を上げた。心と頭の中を覗き見たかのようなネズミの台詞に、今度は紫苑の顔がさっと青くなる。
―まさか、知られて。
「彼女と2人きりで、あやうく欲情しそうになって、慌てて逃げ出してきたんだろ。で、おれにキスして、冷静になろうとしてる」
得意げに解説されて、紫苑が唖然となる。
(…きみも相当鈍い…)
紫苑は上昇した体温が一気に下がる音をききながら、唇を尖らせ、頬を膨らませると、憮然としてネズミを睨みつけた。
「ばか、ちがうよ!」



2人の影が離れたり重なったりしながらこちらに戻ってくる様子を、丘の上から沙布が見下ろす。
その視線に気付きながらも、ネズミは紫苑を軽く引き寄せ、夜気に冷やされた紫苑の髪を指先でまさぐった。
まったく。鈍いのはあんたの方だ。
そんなだから、幼なじみの恋の告白も聞き逃すんだ。
そんなあんたをいとしいなどと思っているおれも、大概なのかもしれないが。
思いながら、ネズミが沙布の視線を受け止め、睨むように見つめ返す。
挑発じみて見上げてくるネズミの視線を受けとめて、沙布がきっと身を翻し、地下室の階段を降りていく。
夜の闇の中で繰り広げられる秘めやかな攻防に気付くことなく、紫苑はネズミの手に髪を弄られながら、屈託のない笑い声を上げた。






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