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「はじまりの月夜」書き下ろしサンプル



ぷろく新刊「はじまりの朝とさよならの月夜」の書き下ろし部分のサンプルです。
四年後の再会のお話が書き下ろしで15ページほど入ってます。

【書店通販】
とらのあなさま→http://www.toranoana.jp/bl/article/04/0030/02/80/040030028070.html
K-BOOKSさま→http://c-queen.net/ec/products/detail.php?product_id=94564

◆3/30 K-BOOKSさんの通販分完売しました!ありがとうございます!とらさんにはまだありますので良かったらぜひv 












最初に聞こえてきたのは、女の声だ。聞き覚えは無い。だが、顔は知っている気がした。
4年前、ちらりと見た赤い傘の女だ。趣味の良くないセーターの贈り主。
(…あの沙布とかいう女と付き合っているのか?)
ちくりと胸の奥が痛んだ。無論、そんな微かな痛みなど、まるで気付かないふりをしてやり過ごす。
『ここでいいわ』
『気をつけて。あ、沙布。留学、出発はいつだっけ?』
その声に、ネズミがはっと瞳を見瞠った。
(――紫苑)
耳に心地よい、やわらかな声だ。やはり少し大人びたか? それでも口調は変わりない。
懐かしさに胸が熱くなる。
あの頃の姿が、声が、言葉が脳裏に甦ってくる。
ネズミ、と呼ぶ声のトーンも、唇の動きまで。
聞き入りながら瞑目する。
懐かしい。ずっとこのまま聞いていたい。
が、恋人同士の会話の盗聴など、あまりにも趣味が悪い。これでは、まるでストーカーだ。そんな使い道のためにわざわざ修理したわけじゃない。
ともあれ、機能面での問題はなさそうだった。
安堵と落胆に複雑な胸中を誤魔化して、一旦、マイクを切ろうとスイッチに手をかける。が、続いた台詞にぴくりとその手が止まった。
『わたし、あなたの精子が欲しいの』
(………は?)
『あ……えっ?』
『セックスしたい』
『………沙布……えっと…?』
『わたし、あなたとセックスしたいの、それだけ』
(…それだけ、って)
マイクのスイッチを切るのも忘れて、ネズミまでもが茫然となる。
『あの…いや、ちょっと待って……沙布、あの…』
『今すぐによ』
息を飲む。
なんともまあ、大胆な。
あまりにもストレート過ぎる告白に、驚きを通り越して呆れる。だが、ストレート過ぎて、この天然坊っちゃんに通じるかどうか。
モニターの中では、照れたように困ったように頬を染めて頭を掻きながら、紫苑が言葉を選んでいる。
どうする?
誘いにのるのか?
ごくり…と白湯を呑み干し、ネズミの喉が上下する。カップを持つ手に、無意識に力が込められた。
一言一句逃さず聞くべく、耳を澄ます。
『今はだめだ』
『どうして? 女の子に興味がないの? セックスに関心がないの?』
『興味も関心もあるさ。でも…沙布は』
『性的な対象じゃなかった?』
『――親友だと思ってた』
紫苑の答えに数拍の間を置いて、ネズミが脱力したように、はあ…とソファの背に凭れ掛かる。頭を抱えた。
まったく、この天然坊やは――。
童貞喪失の記念日とならなかったことは残念に思ってやる。だが、それはないだろう。
思いながらも、なぜか心の底から安堵していた。
紫苑が、こういう性格でつくづく良かった。
それにしても、もう少し情緒のある誘い方があるだろうに。これだからNO.6の住人は。
『留学期間、2年だろ? 帰ってきた時、ぼくから尋ねる』
『セックスしないかって?』
『うん』
(――あほか、あんた)
失笑が漏れた。
まったく、彼女じゃないが、正真正銘のばかだ。
据え膳を2年も放っておいたら、誰かに先に食われちまうだろ。そういう可能性も考えないのか、このお坊っちゃんは。
やれやれだ。
嘆息して、くすりと笑む。濃灰色の双眸が艶を増し、モニターの中の紫苑の頬を指先でそっと撫でた。
おれなら即押し倒すね、1秒だって待たない。
誰にも渡さない。
誰を思い描いてのことかは頭の隅に置き去りにして、ロボットネズミをけしかけるように操作する。沙布が悲鳴を上げた。
『きゃっ、ネズミ…?』
機械ネズミは茂みを出ると、沙布の横を通り抜け、紫苑の足元からダッフルコートを駆け上がった。



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